子どもに向き合いながらも、社会性を手放さない
育休をとりながら働く「半育休」という選択
「仕事から離れたら、自分でなくなる気がする」
出産をという大きなイベントを経て、わたしたちのキャリアは大きく変化します。育児休養の取得率は86.6%(令和6年度雇用均等基本調査)と、今は、出産を経ても働き続けることが一般的になりつつありますが、長期休業によるブランクは、積み上げてきたキャリアやスキルを失うのではないかという不安、そしてなにより、仕事から完全に離れてしまうことに対する「寂しさ」が、わたしたちを深く悩ませます。 育児のために、本当に、仕事への熱意をいったん手放さなければならないのでしょうか? 塩尻商工会議所に勤務する戸田 紅雀さん(以下、戸田さん)は、この問いに独自の答えを出した女性です。 戸田さんが選んだのは、「半育休※」というかたちの挑戦でした。育児休業期間中に一時的・臨時的に就労するこの働き方は、「育児にも、仕事にも、どっちも真剣に向き合う」という両立のかたちでした。 戸田さんの柔軟性のある生き方は、仕事と子育て…どっちも大事で、子どもと自分の両方の成長を願うわたしたちにとって、一つの希望となり得ます。
育児休業は、寂しい
長野県の中部に位置する塩尻市は、葡萄とワインが有名な街です。市の中心には複合型の市民交流施設「塩尻市市民交流センター(通称:えんぱーく)」があり、建物の4階に「塩尻商工会議所」の事務所があります。 そこに勤務しているのが戸田 紅雀さんです。2025年11月現在、3歳と1歳のお子さんをもつ笑顔が素敵な二児の働くママです

戸田さんの日頃の仕事内容を教えてください。
商工会議所の仕事は多岐にわたります。わたしは事務局として、主に経理や、会員企業様の管理などです。業務上、様々な企業様とやりとりをする機会が多いです。
新卒で入社し現在12年目とお聞きしました。仕事は好きですか?
仕事はとてもやりがいがあります。様々な社長さんたちとお会いする機会が多く、この世代ではなかなか得られない経験だと思っています。会社を経営している方たちとの関わりはすごくいい勉強で、自分の力になっていると感じます。

入社7年目、2021年の春に第一子を妊娠されました。
仕事は楽しく、自分の仕事にも自信を持ち得ていたころです。当時はキャリアップという気持ちではなく、純粋に仕事を続けたいと思っていました。なので、子どもができたのはもちろん嬉しかったのですが、仕事から離れることへの不安を持っていました。
その「不安」というのを、もう少し言葉にすると?
商工会議所の仕事は細かい業務が多く、わたしが長期間休業したら、その間、代わりに担当いただく方に完璧に業務を引き継ぐ自信がありませんでした。それから、先ほど話したように、企業様や社長さんたちとの関りが無くなってしまう、なんか忘れられてしまうんじゃないかと「寂しさ」みたいなのがありました。

寂しさ…ですか。これまでの言葉から、仕事に生き甲斐を感じていることが伝わります。そして、心から楽しいという気持ちがあることも。最終的には「半育休」という育休中に一時的・維持的に就労する働き方を選択されました。どのような経緯で「半育休」を知ったのですか?
インターネットで産後の働き方を調べていました。最初は「なるべく早く復帰したい」と思い色々検索していたら、「半育休」という言葉を初めて知りました。育休をとりながらでも働けるやり方があると分かり、自分でもできそうだと思いました。
出産後の育児の面で、心配に思うことはなかったのですか?
もちろん、生まれてくる子どもには向き合おうっていう気持ちはありました。一方で、わたしの両親は共働きで、わたし自身も結構早めに保育園に預けられていました。保育園の先生方からすごい可愛がって、よくしてくださってたっていう記憶があるんです。なので、保育園とかそういうところも頼りながらやっていく育児の方がいいのかなっていうのは、漠然とちょっと思っていました。

「半育休」のリアルは
2021年2月に第一子を出産された戸田さん。産後から約2か月後に「半育休」を始めました。戸田さんのスタイルは、週に一日だけ職場に出勤するという勤務で、最初は数時間の勤務時間からのスタートでした。「半育休」は戸田さんにとっても、職場にとっても、チャレンジングなことだったと容易に想像できます。

ご出産前から引き続きお聞きします。「半育休」を実際に実現するためには、越えなければならないハードルがいくつもあると思います。
はい。「半育休」を取りたいと決めて、先ずは実際に「半育休」を取得したいと上司に相談しました。職場ではわたし以前に少なくとも10年間は育休取得者がいなかったようです。
10年ですか!? であれば、ただでさえ育児休業の申請にハードルを感じますが、「半育休」を取得したいと申し出た時の上司の方や周りの職員の反応はいかがでしたか?
上司に提案したところ、「完全に休むより、少しでも来てもらった方がありがたい」と比較的すんなりと受け入れてもらえました。労務担当の方も、育休中でも時間単位で勤務できることを雇用保険や育児休業給付金制度の関係でハローワークに確認してくださいました。 わたしの経理業務を引き継げるのは、実質、ある先輩社員の方だけでしたので、事前にわたしから「仕事がいってしまうと思います・・・、本当に迷惑をかけちゃうかもしれない」とお伝えすると、「まあまあ、おめでたいことだから!」と言って、引き受けてくださいました。先輩は普段の仕事にわたしの仕事がプラスアルファだったので、本当に大変だったと思います。

理解のある良い職場ですね。
人数が多い職場ではありませんし、本当に申し訳ないって気持ちでした。
人数が多い職場ではありませんし、本当に申し訳ないって気持ちでした。
仕事の日は、実母に子どもの面倒を見てもらうことが多かったです。自営業を営む母は、当時「コロナ禍」で時間的な余裕があったことが幸いでした。一時保育も利用しました。朝は子どもの用意を済ませて授乳して、ミルクをつくって母に預けます。出勤する時間を遅くしてもらえていました。始めたばかりの最初のころは数時間だけ勤務して帰ります。離乳食が始まったころから、働く時間も増やしていきました。 もちろん予期しないトラブルがありました。出勤すると熱があると連絡が入り、「ごめんなさい、子供が熱を出したので帰ります」といって、すぐに帰ることもありました。
週に一日、日によっては数時間の働き方は柔軟な一方、仕事を進めるうえでの難しさがあったと思います。
わたしの元の経理業務は先輩がほぼすべてやってくださっていました。育休中にわたしが担当したのは、期限に比較的余裕があり、細切れの時間でも進められる業務です。わたしの出勤に合わせて、先輩が「ここをチェックしてほしい」と業務を調整してくれました。 先ほど言ったように、先輩には本当に迷惑をかけていたので、そうは言っても少しでも負担にならないよう、「ここまでやっていきます」「ここからお願いするかもしれないです」みたいな感じで、できるだけ話しながら、なんとかやっていただけました。
コミュニケーションを大切にされてきたんですね。「半育休」の期間、心持ちとして大事にしていたことはありますか?
育休前は「自分ですべてを完璧にこなさなければ」という気持ちが強かったのですが、育休中は「頼らないと無理だ」と痛感しました。お願いばかりでしたが、この柔軟な働き方は、先輩や職場の理解に支えられてできたと感謝しています。

仕事も育児も全力で
わたしの元の経理業務は先輩がほぼすべてやってくださっていました。育休中にわたしが担当したのは、期限に比較的余裕があり、細切れの時間でも進められる業務です。わたしの出勤に合わせて、先輩が「ここをチェックしてほしい」と業務を調整してくれました。 先ほど言ったように、先輩には本当に迷惑をかけていたので、そうは言っても少しでも負担にならないよう、「ここまでやっていきます」「ここからお願いするかもしれないです」みたいな感じで、できるだけ話しながら、なんとかやっていただけました。
子どもを預けて、細切れの時間に仕事をして帰る。時間的にも精神的にもあわててしまう気がします。仕事と育児の両立に不都合はありませんでしたか?
家では言葉の通じない子どもと対面していました。仕事に出ると、話の通じる大人がいて(笑)、社会との繋がりを感じてリフレッシュできました。家に戻るときは、「また子どもと向き合おう」とスイッチを切り替えることができました。わたしは多分、ずっと子どもと向き合っているよりは、働きながらの方が合っていたのかなってのは、ちょっと思います。
社会性を維持することで、子どもへも真摯に向き合うことができたということですね。
仕事は決められた時間があるので一生懸命やらせてもらいました。その分、家に戻る時は、この子を見てあげなきゃって、仕事に出させてもらえたからこそ、また子どもに対してもちゃんと向き合えたと思います。

その後、第二子を2024年1月にご出産されました。その時も「半育休」をとられました。そして、2025年4月に復帰され、現在に至ります。
「半育休」をやっていたからこそ、仕事復帰の抵抗感は少なかったです。業務のやり方や、この時期に何をやるべきかなど仕事の感覚を忘れていなかったからです。また、企業との関係も継続できていました。もし1年間フルに休んでいたら、復帰後のパパパっとした切り替えはできなかったかもしれません。 職場では第二子の「半育休」の時に、タイミングもあって臨時職員さんを雇用してもらい、より安心して働けるようになりました。復帰後も職場の皆さんが子どものことをすごく心配してくれます。発熱など何かあれば、「ちゃんと看てあげて」という感じで、いつでも家に送り出していただけます。
育休前と今で、気持ち面や仕事のやり方の変化はありますか?
『頼むこと』に慣れたのは大きいです。今も子どもの関係で急に休まざるを得ないことがあります。実は昨日も「子どもが熱出しそうで、明日休みそうです」と職場で話して、「明日これをしないとけないので、これだけお願いできますか?」という会話をしていました。 頼ることもそうですが、頼られることも、お互い様の関係が大事だと思います。職場の人数は多くないので、育休だけでなく、他の職員がご家族の介護とかで休まないといけなくなる時には、助け合える職場環境が大事だなって。わたしが助けてもらっているので、助けれるようになりたいなと思っています。 あと、時間内に終わらせるという意識が強くなりました。仕事の期限と仕上げる水準をあらかじめ決めます。
上手に頼ることは、本当に重要なことだと思います。
一番大切にしているのは、感謝を忘れないということです。『ありがとうございます』『すみません、お願いします』というコミュニケーションを取りながら、この環境を維持していきたいと思っています。
今、大切にしている仕事と育児の価値観を教えてください。
仕事を辞めたら自分が自分でなくなるような気がしています。だから、子どもも仕事も両方に向き合いたいともいます。時間は限られるので難しいこともありますが、でも、仕事も育児も、全力で取り組むことです。

おわりに
ブランクを作りたくなかった」そして、「社会と完全に離れたくなかった」という強い仕事への思いから「半育休」を選択した戸田 紅雀さん。「半育休」により、戸田さんは社会性を維持しつつも子どもと向き合うことができたといいます。 出産と仕事。そのふたつは、互いを否定しあう存在ではないはずなのに、実際の生活ではどうしても衝突してしまう関係になりやすい。「仕事から離れたくない」「こどもとちゃんと向き合いたい」。このふたつの本心のあいだで揺れるとき、戸田さんの挑戦は、どっちもという選択肢があることを、わたしたちに教えてくれました。 「育休の形は一つではない」この言葉が、あなたがあなたらしい「最適解」を見つけ、一歩踏み出す勇気につながることを心から願っています。

- Writer
- みなみづかおおき
- Photographer
- Yuzuki Jiashan